今回は、前回の「すずさんと晴美さんが歩いた道(まちあるきガイドブックすずさんが暮らした呉)」よりさらに足をのばし「巡洋艦青葉終焉之地記念碑」を訪ねます。
青葉終焉之地記念碑
「歴史の見える丘」からゆっくりと各所を訪ねながら歩いてきて2時間ちょっと。呉市警固屋へとやってきました。
観光協会発行の「巡洋艦青葉終焉之地の行き方」マップを見れば、呉駅からバスで行くアクセス方法も記載されています。
というか、呉駅から歩きだと5〜6kmの距離があり、どこも立ち寄らずに行っても1時間半ほどかかるので、バスや車で訪れるのが一般的でしょう。
第二音戸大橋へと続くバイパスの入口のあたりに、巡洋艦青葉終焉之地の記念碑がひっそりと建っていました。
重巡青葉
巡洋艦青葉は、太平洋戦争ではウェーク島攻略、珊瑚海海戦、ガダルカナル等に参戦。
昭和19年10月23日ルソン島西方で魚雷攻撃を受け大破。かろうじて呉へと帰還します。
当初は修理する予定だったようですが、修理見込みがたたないのと、人員物資等の不足により警固屋地区に係留され防空砲台としてその後の道を歩みはじめます。
そして昭和20年7月28日の呉軍港空襲で、アメリカの爆撃機より攻撃を受け大破着底。
終戦後の翌年、青葉解体。
碑の揮毫は、中曽根康弘元内閣総理大臣。中曽根氏は海軍主計中尉時代に、青葉に乗艦していました。
呉市発行の体験手記「呉を語る」に、青葉の思い出を綴っていらっしゃるのを読んだ事があります。
中曽根氏は、戦後間も無く呉を訪れ青葉を見た時のことを手記に残しています。
呉の港で爆撃でやられた「青葉」の残骸、マストや煙突を見て、感無量だった。
「青葉」はソロモン海戦で敵の弾が当たり、司令官の五藤存知海軍中将、久宗米次郎「青葉」艦長は共に戦死した。「青葉」の主計中尉も死亡した。
主計中尉は作戦を書き残すのが仕事だ。つまり、艦の正史を書き残すという訳だ。
私も「青葉」に残っていれば死んでいたのである。
呉市政一〇〇周年記念 体験手記 「呉を語る」発行呉市 第三章 海軍と呉より
中曽根氏は、それ青葉のこと以外にも主計中尉だった頃、基地建設のため軍票を大量に発行し戦地を持って行くまでに、あまりの大金のため不安で、軍票を収めた箱の上に寝た等々、リアルな戦中体験を語っておられました。
あの時代に、呉で生きた人々が書いた手記「呉を語る」は大変おもしろく掲載者全員のそれぞれの「呉」を読まさせていただきました。
晴美さんがあの先に見るはずだったフネ
原作 第43回「水鳥の青葉(20年12月)」の回で、 音頭の渡船を渡って物資を交換に行くすずさんと刈谷さん。
帰り道、青葉が着底している前を通ると、元青葉乗組員だった水原哲が立ちすくみ、その前をすずさんが通り過ぎる。
水原が生きていたことを確認したすずさんは、水原に直接語りかけることもなく通り過ぎながら、あの時の晴美さんの言葉を思い出す。
晴美:あっち見てってええ?
何のフネが居(お)りんさるんかね
それに対して、すずさんは語りかける
すず:青葉よ
居ったのは
青葉よ
晴美さん
「この世界の片隅に下巻 」P126 こうの史代 双葉社
青葉終焉之地から歴史の見える丘方面を望む
「呉駅」から、「海軍病院跡」、時限爆弾が炸裂して晴美さんが命を落としたあたりと思われる「歴史の見える丘」 、そして「青葉終焉之地」までずっと歩いてきて、ふと思った。
原作では、あの時なんのフネが居たか・・・晴美さんは防空壕から出て、空襲後の煙でフネが見えいことを嘆き、その直後に時限爆弾が炸裂し命を落とす。
そして終戦後、すずさんは「居ったのは 青葉よ 晴美さん」と語る。
歴史の見える丘南部から、青葉終焉の地方面を望むと、串山公園の山があり着底している青葉を見るのは物理的(地理的)に無理かもしれないと思った。
(調べきれてはいないけど、あの時限爆弾が炸裂した時の昭和20年6月、もし青葉が着底した終焉の地に係留されていなかったとしたら、2人が見ようとした場所で見えたかもしれないが)
しかし青葉は見れないだろう、物理的に見るのは難しいだろうと思うこと自体、原作を読み返してすずさんが語っている箇所を改めて読んで、ナンセンスだと気づいた。
生きとろうが 死んどろうが
もう会えん人が居って ものがあって
うちしか持っとらん それの記憶がある
うちはその記憶の器として
この世界に在り続けるしかないんですよね
哲さん
いまあたなたの笑顔の端に
波を切る青葉が宿っていた
うさぎの跳ねる海が
さぎの渡る空が宿っていた
わたしがちいさく
はるみさんがちいさく宿っていた
「この世界の片隅に下巻 」P126-P127 こうの史代 双葉社
旧海軍墓地の青葉慰霊碑
長迫公園(旧海軍墓地)
ありし日の一等巡洋艦青葉
軍艦青葉戦没者慰霊碑
昭和20年7月の呉軍港空襲を受け、最終的には着底でとどまった青葉だが、数々の作戦で多くの将兵が命を落とした。