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江戸東京発今昔物語

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詩経の「桃夭」を読む。結婚式や婚姻での祝い事に詠まれ続けて来た漢詩

今回は、最古の漢詩集、詩経より昔より結婚式や婚姻の祝いの場等で詠み継がれて来た「桃夭」を読んでみます。

 桃夭(とうよう)

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「桃夭」

桃之夭夭 灼灼其華

之子于帰 宜其室家

 

桃之夭夭 有蕡其実

之子于帰 宜其家室

 

桃之夭夭 其葉蓁蓁

之子于帰 宜其家人

 

詩経[西周]

 

書き下し文

桃の夭夭(ようよう)たる 灼灼(しゃくしゃく)たる其(そ)の華(はな)

この子ゆき帰(とつ)がば 其の室家(しつか)に宜(よろ)しからん

 

桃の夭夭(ようよう)たる 有蕡(ゆうふん)たる其の実

この子ゆき帰(とつ)がば 其の家室(かしつ)に宜しからん

 

桃の夭夭(ようよう)たる 其の葉 蓁蓁(しんしん)たり

この子ゆき帰(とつ)がば 其の家人(かじん)に宜しからん

 

 

用語の意味

  • 夭夭:若々しいさま。美しく勢いがあるさま。
  • 灼灼:花が美しく盛りに咲いているさま。
  • 于帰:嫁にとつぐ
  • 室家:嫁ぐ先、嫁ぐ家。家族。家庭。(家室も同じ)
  • 有蕡:実が多くなるさま。実が大きいさま。
  • 蓁蓁:葉がたくさんしげるさま。

一章めでは桃の花が咲き、二章めで桃の実がなり、三章めで葉がしげる様子を詠っています。

結婚を祝う歌で、桃の花は綺麗な花嫁を、桃の実は子宝、葉がしげるは繁栄を意味しています。

 

一章めで「室家」となってるのに、二章めで「家室」となっているのは韻の関係から

  1. 「華(か)」→「家(か)」
  2. 「実(じつ)」→「室(しつ)」
  3. 「蓁(しん)」→「人(じん)」

他の詩経の作品同様、この詩も詠み人知らず作者不明で、およそ三千年以上前に作られたものと思われます。そんな最古期に属するこの漢詩でも、ちゃんと韻を踏むことを意識して作られているのに驚きです。

 

桃は邪気を払う

f:id:odekakeiku:20190325120607j:plain桃は古来より不思議な霊力が宿るといわれ、魔除けにも用いられて来ました。

その枝で弓をつくれば、よく命中し、桃の実は健康に良いとされ、また葉は神霊が降り立つ場ともされています。

日本でも、古事記では黄泉の国より逃げ帰る伊邪那岐尊(いざなぎのみこと)が桃を投げつけて鬼女を追い払ったり、童話にも「桃太郎」があったり、雛祭りのことを「桃の節句」と言ったり、いずれも桃は邪気を払うというところからきています。

 

詩経

詩経は中国最古の詩集。紀元前12世紀から紀元前6世紀ごろにかけての古代歌謡や民謡を集めたもので、作者はいずれも不明です。

 

f:id:odekakeiku:20190325150229j:plain孔子像 詩経をまとめたのは孔子?

中国では、古くから孔子(前551〜前479)が編纂したと言われていますが、真相は不明。やはりまとめたのは、孔子でないと思われます。

おそらくは宮廷の関係者が、地方をまわって集め標準語に改めたものをまとめたものと推測されます。

どの詩も最初の二語をタイトルにしていますが、桃夭では二語めの「之」を用いて「桃之」としてはつまらないので、三語めの「夭」を用いて「桃夭」としているようです。

  

 参考図書:NHK新漢詩紀行 友愛深厚篇 石川忠久監修 NHK出版

漢詩を読む①宇野直人 江原正士 平凡社 

 

漢詩の朗読といえばNHK漢詩紀行でおなじみの江守徹さん思っていましたが、寺田農さんの淡々とした詠みもなかなか良いです↓

吟じたい漢詩80選

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